作品名:無伴奏(日本)
制作年:2015年
評価項目、各項目の最高は5つ星
1.人間や社会に対する追及の深さ ☆☆☆
2.時間的、歴史的壮大さ ☆☆☆
3.地域を超える力、世界的壮大さ ☆☆☆
4.アイデアの独創性 ☆☆
5.新しい見方の提示 ☆☆☆☆
6.映像上の美しさ、すばらしさ、または独自性 ☆☆☆☆
7.キャスティングの妙味と役者の演技力 ☆☆☆
8.シナリオの整合性や見せる順番の適切さ ☆☆☆
【合計星数】24
【寸評】
多様な愛の在り方について問うもので、冒頭の一見明るいほとばしる問いかけが、映画を観れば観るほど、純粋なものや、深いものに変わる。観るものとしては、おもしろいような、怖いような気分になる。そして、最終的に、これは余りにも大きな問題で、主人公の高校生はもちろんのこと、一人前の大人である我々も、そんな難しい問題の前で立ちつくすしかない。
それほどの問題だからこそ、1969年反戦運動や全共闘運動が起きていた激動の1969年に設定したことは正しい。戦後70年において、これ以外の時代で、これほどまでに問題を突き詰められた時代はないからだ。ただし、この時代を実感できない若者とって、冒頭のデモシーンなどは違和感があり、映画の本題と無関係だと思われるにちがいない。
高校3年生の野間響子は、親友と制服廃止闘争委員会を結成し、革命を訴えシュプレヒコールをあげる日々をおくるが、実はベトナムにも安保にも沖縄にも強い想いがあるわけではない。そんな自分に嫌気がさしていたある日、響子は親友に連れられて入ったバロック喫茶「無伴奏」で、どこか捉えどころのない大学生・渉と、渉の親友・祐之介、祐之介の恋人・エマの3人に出会う。
場所の設定が、東京でないのがよい。地方都市の仙台だ。たむろする場所が、フォーク喫茶ではなく、バロック喫茶なのがよい。この映画は原作があってのもので、これらの点は、映画監督の意図によるものではないかもしれないが、それが興味深い。
映像や画面やアングルは、多分に常識的で伝統的な面があるが、全体としてきわめて適格で、基本的にきれいだ。音楽はバロックが中心だが、フォークなどもちりばめ、全体の内容をうまく盛り上げている。
ただ、見終わって、青春時代や若者に特有だと思うが、問題となっている社会や愛情が余りに観念的で、頭のなかや肉体だけで把握されたものだという印象が強く残る。現実感がないのだ。だから、最後の死も情緒的にしかとらえられない。大学生渉の実家の状況や、主人公響子と親との葛藤などをもっと丁寧に描写したら、そのような浮ついた印象は多少とも減少することだろう。
私としては、久しぶりにおもしろい映画を観た。
合計星数(2019年4月12日に下記の評価を修正)
12以下 駄作
14~16 一般的な並みの作品
18以上 秀作、話題作
24以上 優良作品
29以上 最優秀作品